宇宙世紀の「カウボーイ」と「宇宙船地球号」
ガンダムの世界「宇宙世紀」には、人類をほぼ統一した政府である地球連邦が存在します。
地球連邦政府がどのような過程で成立したかは劇中では語られませんが、その目的ははっきりしています。旧世紀から始まった爆発的な人口の増加に伴い、資源の枯渇を気にせずに開拓を続ける所謂「カウボーイ経済」が破綻、限られた資源のもとで地球を閉鎖系として捉える「宇宙船地球号の経済」への移行が人類にとって不可避となりました。そのためには、地球の周りに巨大なスペースコロニーを建設し、増えすぎた人口を宇宙移民させなければなりません。地球連邦政府は、全人類を統制しむりやり宇宙移民させることにより、地球環境を保全するために成立したのです。
しかし、人類の過半が地球の周りのスペースコロニーに移り住んだ頃、地球連邦政府にはその存在意義を揺るがす矛盾が生じてきます。
巨大なスペースコロニーを建設するためには、莫大な資源が必要となります。そのため、月はもちろん、小惑星帯や木星まで開発され、大量の資源が地球圏に向けて送り込まれました。人類を統制した地球連邦政府が太陽系を開拓することにより、人類は無限の資源を手に入れることができたのです。
この時点で、「宇宙船地球号」の概念は崩壊したわけです。人類は「宇宙船地球号の経済」から、古き良き時代の「カウボーイ経済」に回帰できるのです。言い換えると、地球連邦という人類を統制する統一政府の存在意義は無くなったはずでした。
しかし、地球連邦政府は、自らの矛盾を認めはしませんでした。地球に残ったわずかなエリートが宇宙移民者を支配するという政治システムを維持することに固執したのです。
地球から最も遠く、月の裏のラグランジェポイントに位置する宇宙植民地サイド3がジオン公国を名乗り、連邦政府からの独立を宣言したのは、ちょうどその頃です。
ジオンがたとえ連邦を離脱しようとも、巨大な連邦政府にとってはたいした損失はありません。ていうか、連邦に従わない辺境の植民地なんて、経済封鎖でもしてほうっておいてかまわないはずです。旧世紀の帝国主義時代の植民地とは異なり、スペースコロニー自体はなんの資源も生み出さないのですから。
なのに、連邦はジオンの独立を決して許さず、軍事力を行使して嫌がらせを始めます。なぜでしょう?
連邦としては、人類唯一の政府として木星や小惑星帯の無限の資源を独占してきた正統性が失われてしまうを避けたかったのですな。ジオン政府が連邦から独立すれば、当然、太陽系の資源に対する権利を主張するでしょう。そして、地球圏の維持にこだわる連邦を尻目に、無限の資源を利用してジオンは太陽系に進出していきます。いつかは、連邦を圧倒する国力を持つかもしれません。
連邦がジオンの独立を認めず、ジオンが実力で独立を勝ち取ることを決意したのは、こんな背景があるわけです。連邦とジオンによる一年戦争とその後につづく一連の争乱は、いわば矛盾だらけの「宇宙船地球号」を維持したい連邦と、宇宙を舞台にした新たな「カウボーイ経済」を求めるジオン(と、そのシンパ)の紛争なわけですな。
「宇宙船地球号の経済」とか「カウボーイ経済」とかは、1966年にアメリカの経済学者ケネス・ボールディングという人が言い出したそうですが、宇宙世紀になってもその概念は立派に通用しそうです。
もっとも、ボールディングは、「カウボーイ経済」は超克されるべきものだと考えていたようですが、僕としては正直言って「宇宙船地球号」の考えは、あまりにも息苦しいような気がします。はやく宇宙世紀になって、ジオンが目指したような宇宙を舞台とした新たな「カウボーイ経済」が実践される世の中がこないかなぁ。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント