情報処理学会の倫理綱領とか
日本における工学倫理とか情報倫理とかの分野のお話を聞いていると、必ず出てくるのが情報処理学会の倫理綱領です。
実は私もこの業界に入った15年ほど前から情報処理学会には正会員として入会していたのですが、こんな倫理綱領があるとはつい最近まで知りませんでした。社会人になってもアカデミックな世界に少しでも恩返しをしようかなと、なんとなく会費を払い続けてきただけなので、会誌も論文誌も開封もせずに会社に積んであるだけなもので。
でも、この倫理綱領、改めて読んでみるとなかなかよくできている……ような気がします。倫理学の教科書っぽくない文面がいいですね。
特に、綱領本体よりも「なぜ倫理綱領が必要か」の中の次の一節にしびれました。
これまで多くの技術者は「なされうるものは、なされなければならない」というブレークスルーの理念を信じてきた。だが、これからは、このブレークスルーの理念は社会的に受容され共有されるガイドラインによって制約を受けるようになるだろう。
「なされうるものは、なされなければならない」と実際に堅く信じている技術者が情報処理関連には多い……という事実を知らなければ、こんな一文は書けません。私自身も含めて、確かにそのような傾向があります。日本の技術屋の中には、10年も前から、技術者と世間の常識のギャップをきちんと倫理の問題として認識している人たちがいたということですな。ちょっと感動。やるな情報処理学会。(この倫理綱領策定に誰が参加したのか、その過程でどのような議論がおこなわれたのかについては、まったく知りませんが)
そんな情報処理学会ですが、最近は会員数の減少に悩んでいるようです。
ちょっと古い記事ですが。
情報処理学会、ITベンダー各社の新卒採用エントリシートに所属学会欄を要請 (スラッシュドット 2006年08月19日)
情報処理学会は,同会理事を務める大手ITベンダーに対し,新卒採用のエントリシートに所属学会や発表論文の記入を要請したとのこと。……中略……。ITベンダーが採用時に学会名を問うことを全国の大学に伝えて,大学側や学生の入会を促すのが情報処理学会の狙い。
たしかに、研究者のあつまる学会としての権威は、正直いってあまり感じられないんだよなぁ。かといって、社会人の技術者もあまり会員にはなっていないし。うちの会社でも情報処理学会に入っている人は2~3人しかいません。でも、もともと日本では、企業につとめる社会人が学会に入る風習は、研究職でも無い限りほとんどないし、無理もないかも。ACMとかIEEEとかと比較されるのもかわいそうだ。
研究のための学会というよりも、情報処理技術者の技術者協会としての役割をきっちりと果たしてもらえると、IT土方と揶揄される末端の技術者達の地位向上にもつながるかもしれないなぁ、などと思ったりもします。
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